2010年10月21日木曜日

功利主義とその意識

早くも4週目に突入、そして週も半ばをすぎました。
一年が52週だとすると、あと48週しかない。
一年は本当に早い。

今週も苦手とするディスカッション&ディベート中心の授業からスタート。
今週のテーマは"Ethics and developing country"。

授業が始まってしばらくして気が付いた。
お、何だか今日は授業が分かるぞ!
と思ったら先生はどうやらアメリカ人。
イギリス英語が分かるようになったわけではなかった…と少しがっかり。
と思ったけどやっぱり今週はディスカッションも付いていけたし発言できた。
ちょっと進歩してる事を実感。

授業内容は興味深くて
まず導入として以下を議論した。

「あなたを含めた5人が地下に閉じ込められた。しかし地上に続く狭い抜け穴を見つけた。5人のうち一番太った人が初めに抜け穴を通ろうとしたが途中で挟まってしまった。残されたあなた方4人は皆穴を抜けられるサイズだ。そしてあなた方4人はダイナマイトを持っている。
さてあなたはどうする?」

ちょっと前に日本でも流行ったマイケル・サンデル教授のJusticeというレクチャーシリーズがあったけどまさにそんな感じで少し興奮。

面白いのは
「ダイナマイトで違う穴を作る」とか「挟まった人を爆破したら皆埋まっちゃうんじゃないか」とか
ユニークな意見で先生を困らせる。

結局
1.爆破する
2.皆で餓死する
の2択で選ぶことに。

サンデル教授の哲学の授業であれば
ここから功利主義についての説明が始まる所である。
しかしLSHTMではこう続く。
「Epidemiologyは功利主義の上に成り立っている学問であることを忘れるな。」

僕らが勉強するEpidemiology、日本では本当の意味でまだ馴染みのない“疫学”とは
人でも動物でも、それらを個体としてでなく集団として扱う学問だ。
優先されるものは集団(これは人)の利益であり、最大多数の幸福が追求される。
医療にとどまらず、行政も経済も世界を動かしている大きな力は功利主義に頼る所が大きい。
宮崎での口蹄疫で何が行われたかも記憶に新しい。

お分かりのように
この考え方は大きな危険をはらんでいる。
特に一人一人の命の質を向上させるために発展してきた医療分野において
時に一部の弱者を切り捨てる可能性も否定できない疫学という分野がかなり特殊であることは間違いない。

個人的にもかつてMountains Beyond Mountains(邦題:国境を越えた医師)という本に出会ったとき
「功利主義に基づいた医療政策」と「一人一人の命を救う」という事の相容れない性質に大きな衝撃を受けたことがある。
(北大の図書館に買ってもらったので読んでみて下さい)



この本では
病気を減らすために費用対効果が最大の対策を推し進めるWHOと
陽の目に当たらない特定の貧困国の患者を莫大な資金を使って治療するある医師が
強烈な対比で描かれている。
これを読んだ時、本当に功利主義に基づいた医療政策が正しいのか、答えを探すようになった。

政策になると規模が掛け算どころか累乗になるから
その分目に見える衝撃も大きい。
だけれど
「誰かを救おうとすれば誰かは見殺しになる。」
それは政策レベルの話に限らず
人一人を見る医療でも同じだ。
全人を治せるスーパーマンみたいな医者は存在しない。
同じように全ての人を救える医療は存在しない。
同じようにすべての国民を幸せにできる国策も存在しない。

これはすごく当たり前の事だけど
小さな事ばかりを見ていたら忘れてしまいがちな事実だと思う。

そして現実はどうか。
資源も資金も時間も労力も全ての要素が限られている。
功利主義は完璧ではないが
医療保健においても果たす役割は大きい。
こう書くと誤解を招きそうだが、
疫学は決して弱者を見捨てる物ではない。
ただ弱者も均一でなく救われない弱者も当然生まれる、ということ。

LSHTMはもちろんその性格上
特に途上国の疫学がテーマになることが多い。
そこには功利主義とはまた別の倫理が存在する事も今回の授業で学んだが、これについてはまた機を改めて書くことにする。

あちらこちら話が散漫してしまったが
現代社会(日本以外)で疫学が当然のものとして認識される中で

『疫学が功利主義の上に成り立っており
それを集団に紛らわすことなく一人の人間として常に意識しろ』

=常に対策の恩恵を受けない集団が居ることを忘れるな

という教授の辛辣な教えは生涯忘れてはいけない強烈なメッセージだった。

何だかうまく伝えられないもやもやした内容になりました。
どうやって伝えればいいかちょっと整理しよう。

2 件のコメント:

  1. これまでじっくり考えたことなかったです。コウリシュギなんて。
    新たな刺激をありがとうございます!

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  2. 功利主義と無意識に書いてしまったけど言葉として適切かちょっと分かりません。ハーバードのマイケル・サンデル教授の授業がYoutubeかニコニコ動画で見れるんだけど、すごく面白いので是非見てみてください。

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